運と意思決定
モンティ・ホール、誕生日問題、ギャンブラーの誤謬、破産確率、生存者バイアス。確率で運と付き合うための実践編です。

1. 確率と、生きるための「運」
中級上級世の中は、実力と努力だけでなく、運の影響も大きく受けています。運は「どうにもならないもの」ではなく、確率として測り、付き合い方を工夫できるものです。このページでは、直感がだまされやすい有名な問題と、運を味方につける考え方を扱います。
※ここでの話は数学の考え方の紹介で、投資やギャンブルをすすめるものではありません。
2. モンティ・ホール問題
3つのドアのうち1つに車、2つにはヤギがいます。あなたが1つ選ぶと、答えを知っている司会者が、残りのドアからハズレを1つ開けて見せます。ここで「ドアを変えてもいいですよ」と言われたら、変えるべきでしょうか。
よって変えると 2/3 で当たり。変えないと 1/3 のままです。
モンティ・ホールを1000回試そう
3. 誕生日のパラドックス
何人集まれば、「同じ誕生日の2人」がいる確率が50%を超えるでしょう? 直感では180人くらい? 実際は23人です。余事象で計算します(うるう年は無視)。
直感を裏切る理由は、比べる相手が「自分」ではなく「全員同士」だからです。23人なら組合せは ₂₃C₂=253組もあります。
何人で何%?
4. ギャンブラーの誤謬
コインで表が5回続きました。次は? 「そろそろ裏が出る」と思うのがギャンブラーの誤謬です。コインは過去を覚えていません。毎回独立なので、次に表が出る確率は1/2のままです。
- 「外れ続けたから、そろそろ当たる」も「当たり続けているから、今は調子がいい(熱い手)」も、独立な試行なら根拠なし。
- 大数の法則と正規分布の大数の法則は「偏りが埋め合わされる」のではなく「偏りが後の膨大な回数で薄まる」もの。
5. 「稀なこと」は、機会が多ければ必ず起こる
100万分の1の確率のできごとが、100万回の機会にあれば、少なくとも1回起こる確率は?
約63%です。当せん確率が極端に低い宝くじでも、購入者全体では毎回誰かが当たります。「自分は当たらない」と「誰かが当たる」は両立します。ニュースで流れる奇跡的な偶然も、機会の総数が多ければ、どこかで必ず起きているのです。
6. 破産確率:資金と目標の関係
元手 a 円で、1回1円を賭け、目標 N 円に達するまで続ける(0円で破産)。毎回勝つ確率が p のとき、目標に到達できる確率は次のとおりです。
元手10円で目標100円なら、成功は10%。破産は90%です。
勝つ確率が p、負ける確率が q、r = q/p とすると、目標に到達する確率は (1 − rᵃ) ÷ (1 − rᴺ)(p≠1/2)。たとえば p=0.47(ルーレットの赤黒とほぼ同じ)、a=10、N=20 なら約 23%。公平なら 50% のはずが、たった3ポイントの不利で半分以下に下がります。
破産シミュレーター
1円ずつ賭けるゲームを2000人分シミュレーションし、目標に届いた割合を理論値と比べます。
7. 期待値だけで決めない:リスクと保険
保険は、期待値では「保険会社が儲かる」ように作られています。それでも入る理由は、めったに来ない大損(破滅)を避ける価値があるからです。
| 選択 | 平均 | 最悪 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 宝くじ(還元率およそ半分以下) | マイナス | 購入額を失う | 「夢の代金」と割り切れる少額 |
| 火災保険・医療保険 | ややマイナス | ほぼなし | 起きると生活が壊れる損失 |
| 分散した長期投資 | プラス見込み(保証なし) | 一時的な大きな下落 | 数十年単位で余裕資金を使う |
ポイントは、「失っても立ち直れる額」で勝負することと、「失ったら終わる額」は賭けないことです。この考え方の数学的な形が、最終章のケリー基準です。
8. 生存者バイアス:見えていない失敗
1024人が、毎年コインの表裏を当てるゲームに挑戦し、外れた人は毎年退場します。10年後にどれくらい残るでしょう。
この1人は10年連続で当て続けた「達人」ですが、実力は全員同じ、ただの運です。成功者の話だけを聞くと、脱落した1023人の存在が見えず、「達人の秘訣」があるように錯覚します。
- 「成功者の共通点」は、失敗者にも共通していたかもしれない。
- 運の要素が大きい世界では、結果だけで実力を判断しない。プロセスと、母数(何人が挑戦したか)を見る。
9. 「2倍」の落とし穴:相対と絶対
「この行動でリスクが2倍になる」と聞くと大ごとに思えますが、もとのリスクが0.001%なら、2倍でも0.002%。増えたのは0.001ポイントだけです。ニュースの数字に出会ったら、「もとの確率はいくつ?」を必ず確認しましょう。条件付き確率とベイズのベイズの定理と同じく、もとの割合(事前確率)が結論を決めます。
10. 運と付き合う7つのコツ
- 試行回数を増やす。当たる確率が低くても、機会を重ねれば1−(1−p)ⁿ は上がる。
- 破滅する賭けはしない。期待値がプラスでも、全財産を賭けるのは別問題。
- 独立な機会に分散する。ひとつの結果に人生を預けない。
- 期待値が正の選択肢を選ぶ。そして結果ではなく判断の質で振り返る。
- 「過去」ではなく「仕組み」を見る。連続して外れても、確率は変わっていない。
- 成功談の母数を想像する。見えている少数の裏に、多数の脱落者がいる。
- もとの割合を確認する。珍しいものを探すとき、陽性は大半が偽物になりうる。
11. 練習問題
- ドアが4枚(当たり1つ)のモンティ・ホール。最初に1枚選ぶ。司会者がハズレを1枚開けたあと、残り2枚のどちらかにランダムに変えたら当たる確率は?(変えない場合は?)
- 30人のクラスで、同じ誕生日の2人がいる確率は?(全員違う確率は約0.294)
- 公平なゲームで、元手20円から目標50円に到達する確率は?
- 1/10000の確率のくじを10000回引いたとき、少なくとも1回当たる確率は?
- コインで表が5回連続した。次に表が出る確率は?
答えと途中式を確認する
1:最初が当たり1/4。変えない場合は 1/4。最初がハズレ(3/4)のとき、残り2枚のうち当たりは1枚なので、ランダムに選ぶと1/2。変える場合:3/4 × 1/2 = 3/8。
2:1 − 0.294 = 約0.706(70.6%)。
3:20 ÷ 50 = 0.4(40%)。
4:1 − (1−1/10000)¹⁰⁰⁰⁰ ≒ 1 − 1/e ≒ 0.632。
5:1/2。過去の結果は影響しない。