発展|ベイズ推定(確率シリーズ 第8章)

ベイズ推定

確率が分からないとき、データで見立てを更新して真の値に迫る方法。ベイズの定理を"くり返し使う"と何ができるのかを体験します。

ここから発展編! むずかしい式は出てくるけど、やってることは"考えを更新する"だけ。実験しながら進めよ!
✦✦クリーム色のニット姿で確率を説明する若い先生

1. ベイズ推定とは:信念をデータで更新する

発展これまでは「確率が分かっている」コインやサイコロを扱ってきました。現実には、確率そのものが分からないことのほうが普通です。このコインは本当に公平? この広告のクリック率は? 新しい薬の有効率は?

ベイズ推定は、「分からない量」について、最初の見立て(事前分布)をデータで更新し、確信の度合い(事後分布)を作る方法です。道具は、条件付き確率とベイズで学んだベイズの定理だけ。

事後確率 ∝ 事前確率 × 尤度

尤度(ゆうど)は「その仮説が正しいとして、今回のデータが出る確率」。∝ は「比例する」(最後に合計が1になるよう割る)という意味です。

2. 3つの仮説で試す

このコインの表が出る確率 p は、0.3、0.5、0.7 のどれか。最初はどれも同じくらい怪しい(各 1/3)とします。表が1回出たらどうなるでしょう。

仮説 p事前尤度(表が出る確率)事前×尤度事後
0.31/30.30.10000.200
0.51/30.50.16670.333
0.71/30.70.23330.467
合計10.51

「事前×尤度」の合計 0.5 で割ると事後が求まります。そしてもう一度表が出たら、この事後を新しい事前として同じ計算をします。

仮説 p事前(さっきの事後)×尤度事後(2回連続表)
0.30.2000.06000.108
0.50.3330.16670.301
0.70.4670.32670.590

「表に偏っているコイン」への確信が、0.333 → 0.467 → 0.590 と、データのたびに更新されました。

3. p を連続な値として扱う

仮説を 0 から 1 までのすべての値にしたのが、ふつうのベイズ推定です。最初に「どの p も同じくらいありうる」(一様な事前分布)と考え、表が h 回、裏が t 回出たとき、p の事後分布の形は次のとおりです。

事後分布の形 ∝ pʰ × (1−p)ᵗ

二項分布の確率 ₙCₖ pᵏ qⁿ⁻ᵏ の、p に関する部分だけを取り出した形です(ベータ分布と呼ばれます)。

例:3回投げて3回とも表。頻度だけで考えると「表の確率 100%」ですが、ベイズ的な事後平均は (3+1)÷(3+2)=0.8。3回では「絶対に表しか出ない」とは言い切れないので、極端な結論を避けてくれます。

コインの偏りを推定しよう



緑の山が、p の"ありそうさ"です。データが増えるにつれて山が細くなり、本当の値(ピンク線)に近づきます。強い信念だと最初は動きにくいのも観察してみて。

4. 実用例:迷惑メールフィルタ

例題:メールの40%は迷惑メール。迷惑メールの50%、通常メールの5%に「無料」の語が含まれる。「無料」を含むメールが迷惑メールである確率は?
迷惑かつ「無料」:0.4 × 0.5 = 0.20
通常かつ「無料」:0.6 × 0.05 = 0.03
事後確率 = 0.20 ÷ (0.20+0.03) ≒ 0.87

ここに「当選」という語も含まれていたら? 迷惑メールの30%、通常メールの2%に含まれるとします。これをオッズ(迷惑 : 通常 の比)で計算すると楽です。

事前オッズ = 0.4 : 0.6 = 2/3
「無料」の尤度比 = 0.5 ÷ 0.05 = 10、「当選」の尤度比 = 0.3 ÷ 0.02 = 15
事後オッズ = 2/3 × 10 × 15 = 100 → 確率 = 100 ÷ 101 ≒ 0.99
事後オッズ = 事前オッズ × 尤度比 × 尤度比 × …

証拠が1つ見つかるごとに、オッズに尤度比を掛けるだけ。ただし2つの語が独立に現れるという仮定を置いています(ナイーブベイズ)。現実には、この仮定は完全には成り立たないが、実用上とても強力です。

5. 統計学の別の流派との違い(ちょっとだけ)

ベイズ流は、確率を「信念の強さ」として扱い、「pが0.6〜0.8にある確率が95%」と言えます(信用区間)。一方、伝統的な統計(頻度論)では、p は固定された値で、「同じ調査を何度も繰り返せば95%の区間が真の値を含む」という言い方をします(信頼区間)。目的によってどちらも使われます。ベイズが強みなのは、データが少ないとき、事前の知識を使いたいとき、逐次的に更新したいときです。

6. 練習問題

  1. p=0.3、0.5、0.7 の3仮説(事前は各1/3)で、裏が1回出た。各仮説の事後確率は?
  2. 一様な事前分布から、表7回・裏3回のとき、頂上と事後平均は?
  3. 迷惑メールが50%で、ある語を含む割合が迷惑メール40%・通常メール10%のとき、その語を含むメールが迷惑メールである確率は?
  4. 事前オッズ1:4(確率0.2)、尤度比8のとき、事後の確率は?
  5. 5回投げて表が0回のとき、事後平均は? なぜ0にならないのか?
答えと途中式を確認する

1:裏の尤度は 0.7、0.5、0.3。合計1.5で割ると 0.467、0.333、0.200。

2:頂上 7÷10=0.7。事後平均 (7+1)÷(10+2)=2/3≒0.667。

3:0.5×0.4=0.20、0.5×0.1=0.05。0.20÷0.25=0.8。

4:事後オッズ 1/4 × 8 = 2(2:1)。確率=2÷3=2/3。

5:(0+1)÷(5+2)=1/7≒0.143。5回だけでは「表が出ない」コインだと断定できないため。