ベイズ推定
確率が分からないとき、データで見立てを更新して真の値に迫る方法。ベイズの定理を"くり返し使う"と何ができるのかを体験します。

1. ベイズ推定とは:信念をデータで更新する
発展これまでは「確率が分かっている」コインやサイコロを扱ってきました。現実には、確率そのものが分からないことのほうが普通です。このコインは本当に公平? この広告のクリック率は? 新しい薬の有効率は?
ベイズ推定は、「分からない量」について、最初の見立て(事前分布)をデータで更新し、確信の度合い(事後分布)を作る方法です。道具は、条件付き確率とベイズで学んだベイズの定理だけ。
尤度(ゆうど)は「その仮説が正しいとして、今回のデータが出る確率」。∝ は「比例する」(最後に合計が1になるよう割る)という意味です。
2. 3つの仮説で試す
このコインの表が出る確率 p は、0.3、0.5、0.7 のどれか。最初はどれも同じくらい怪しい(各 1/3)とします。表が1回出たらどうなるでしょう。
| 仮説 p | 事前 | 尤度(表が出る確率) | 事前×尤度 | 事後 |
|---|---|---|---|---|
| 0.3 | 1/3 | 0.3 | 0.1000 | 0.200 |
| 0.5 | 1/3 | 0.5 | 0.1667 | 0.333 |
| 0.7 | 1/3 | 0.7 | 0.2333 | 0.467 |
| 合計 | 1 | 0.5 | 1 |
「事前×尤度」の合計 0.5 で割ると事後が求まります。そしてもう一度表が出たら、この事後を新しい事前として同じ計算をします。
| 仮説 p | 事前(さっきの事後) | ×尤度 | 事後(2回連続表) |
|---|---|---|---|
| 0.3 | 0.200 | 0.0600 | 0.108 |
| 0.5 | 0.333 | 0.1667 | 0.301 |
| 0.7 | 0.467 | 0.3267 | 0.590 |
「表に偏っているコイン」への確信が、0.333 → 0.467 → 0.590 と、データのたびに更新されました。
3. p を連続な値として扱う
仮説を 0 から 1 までのすべての値にしたのが、ふつうのベイズ推定です。最初に「どの p も同じくらいありうる」(一様な事前分布)と考え、表が h 回、裏が t 回出たとき、p の事後分布の形は次のとおりです。
二項分布の確率 ₙCₖ pᵏ qⁿ⁻ᵏ の、p に関する部分だけを取り出した形です(ベータ分布と呼ばれます)。
- 山の頂上(最もありそうな p):h ÷ (h+t)。つまり表の割合。
- 事後平均:(h+1) ÷ (h+t+2)(ラプラスの継起則)。
- 山の幅:データが増えるほどせまくなる=確信が強くなる。
コインの偏りを推定しよう
緑の山が、p の"ありそうさ"です。データが増えるにつれて山が細くなり、本当の値(ピンク線)に近づきます。強い信念だと最初は動きにくいのも観察してみて。
4. 実用例:迷惑メールフィルタ
ここに「当選」という語も含まれていたら? 迷惑メールの30%、通常メールの2%に含まれるとします。これをオッズ(迷惑 : 通常 の比)で計算すると楽です。
証拠が1つ見つかるごとに、オッズに尤度比を掛けるだけ。ただし2つの語が独立に現れるという仮定を置いています(ナイーブベイズ)。現実には、この仮定は完全には成り立たないが、実用上とても強力です。
5. 統計学の別の流派との違い(ちょっとだけ)
ベイズ流は、確率を「信念の強さ」として扱い、「pが0.6〜0.8にある確率が95%」と言えます(信用区間)。一方、伝統的な統計(頻度論)では、p は固定された値で、「同じ調査を何度も繰り返せば95%の区間が真の値を含む」という言い方をします(信頼区間)。目的によってどちらも使われます。ベイズが強みなのは、データが少ないとき、事前の知識を使いたいとき、逐次的に更新したいときです。
6. 練習問題
- p=0.3、0.5、0.7 の3仮説(事前は各1/3)で、裏が1回出た。各仮説の事後確率は?
- 一様な事前分布から、表7回・裏3回のとき、頂上と事後平均は?
- 迷惑メールが50%で、ある語を含む割合が迷惑メール40%・通常メール10%のとき、その語を含むメールが迷惑メールである確率は?
- 事前オッズ1:4(確率0.2)、尤度比8のとき、事後の確率は?
- 5回投げて表が0回のとき、事後平均は? なぜ0にならないのか?
答えと途中式を確認する
1:裏の尤度は 0.7、0.5、0.3。合計1.5で割ると 0.467、0.333、0.200。
2:頂上 7÷10=0.7。事後平均 (7+1)÷(10+2)=2/3≒0.667。
3:0.5×0.4=0.20、0.5×0.1=0.05。0.20÷0.25=0.8。
4:事後オッズ 1/4 × 8 = 2(2:1)。確率=2÷3=2/3。
5:(0+1)÷(5+2)=1/7≒0.143。5回だけでは「表が出ない」コインだと断定できないため。